本年度の成果は次の2点である。 第一に、並列型トートロジー「XはX、YはYだ」(「シロはシロ、タマはタマだ」)の解釈を定式化した。並列型トートロジーは、X/YをそれぞれX/Yと結合する恒真的同一性コネクターを断定し、XとYがともにカテゴリーW(例えば「猫」)に属するという事実の関連性を否定する。これにより、「XもYもカテゴリーWのメンバーだ」)という前提に基づく「XとYを同様に扱うべきだ」という推論を却下する働きを持つ。この分析は一見グライス流のアプローチと類似しているが、先行研究とは異なり、発話という音声現象に代えてコネクターの使用という認知概念に依拠する点に特徴がある。これにより、並列型トートロジーの解釈と説明拒否トートロジーの解釈を同一の原理で説明することができる。 第二に、条件節を伴う矛盾文「PならばXはXではない」(「猫はねずみを取らなければ猫ではない」)が持つA.属性Pを持つXをXとして扱うのをやめるべきだ(特定のXに関する処遇)、B.属性Pを持つXが属性¬Pを持つようになることが望ましい(特定のXのあるべき姿)、C.一般にXは属性¬Pを持つものだ(カテゴリーXの定義)、という三種類の伝達情報を矛盾文と条件文の解釈スキーマの合成により導出した。「PならばXはXではない」は条件文「PならばQ」の一種であると同時に矛盾文「XはXでない」の一種であり、双方から属性を継承する。これにより、一切の補助仮定なしに、情報Aが肯定式に基づく推論であり、情報Bが条件文の推移性に基づく推論であり、情報Cが条件文の原因命題に関する推論であることが示される。また、このことから、これらの情報を矛盾文の意味論に組み込む分析は誤りであると結論できる。
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