研究概要 |
本年度は,第一に,戦前日本の小作争議の発生要因を定量的に検証した.本研究の目的は,第一次大戦後における小作争議発生の要因を,農外労働市場の拡大を起点に,農業労働力の流出や農地の再配分を通して生起する農業再編も視野に入れつつ,府県パネルデータを用いて定量的に検証することにある。従来の小作争議をめぐる議論では,機会費用論を検証することになる。府県パネルデータによる定量分析の結果,労働市場の拡大が,(1)米作付率の低下,(2)小作争議の発生,(3)小作料の下落,を促したことを確認した。このことは,労働市場拡大による農業経営の機会費用の高まりが,農業労働力流出を促し,小作地需要の低下と小作料の下方調整圧力となったこと,この農地流動化による小作料調整の摩擦が小作争議として表面化したこと,そうした摩擦を伴いつつ,長期的には小作料の下落によって農地の再配分が進み,中農標準化や自作専業化という農業の再編が進行したこと,と理解できる。本稿の研究史上の貢献は,(1)従来記述資料により主張されてきた労働市場と小作争議との関連性を,府県パネルデータを用いて定量的に検証したこと,(2)労働市場と小作争議・中農標準化(農業再編)を統合的に把握したこと,である. 第二に,開発援助の理論研究を行った.開発援助において多数のドナーが被援助国に対して過剰な援助を供給する「援助の氾濫」が発生するメカニズムを理論的に分析し,近年注目されている援助形態である「一般財政支援」と関連させて議論した.
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