ヤタケマイシンのように活性化されたシクロプロパン環構造を有する化合物群は、DNAのアルキル化を作用機序として強力な抗腫瘍活性を示すことが知られている。私は当研究室で開発された芳香族アミノ化反応を鍵反応として本化合物の全合成研究を行い、これまで合成が困難であった複雑な構造を持つ含窒素環状化合物に対する一般性の高い新規合成法を確立することを目的として本研究に着手した。 一年目はヤタケマイシンを構成する3つのセグメントの合成とヤタケマイシンの不斉全合成に関して検討を行った。中央セグメントの合成に関しては、リチオベンゼン誘導体による光学活性エピクロロヒドリンの位置選択的な開環反応を鍵反応として、ヤタケマイシンとその類縁体に共通する不斉中心の構築に成功した。また、分子内アミノ化反応を最大限に利用することで、きわめて短工程かっ効率的に3つのセグメントをグラムスケールにて合成できた。合成したセグメントの縮合については反応条件の詳細な検討を必要としたものの、Bogerらにより報告されている通算収率を大幅に上回る合成ルートを確立できた。さらに、合成終盤においてベンジルエーテルの脱保護を行ったが、既存の反応条件では全く目的物が得られなかった。そこで、副生成物を精査し、種々の反応条件を検討することで、これまで困難であった多くの官能基を有する基質に対しても適用可能な新規脱ベンジル化条件を見いだした。これらにより、サブグラムスケールでのヤタケマイシンの全合成を達成し、その成果はJournal of the American Chemical Society誌にすでに報告している。 今後は得られた知見をもとに、類縁化合物であるCC-1065およびデュオカルマイシン類の最短工程かつ最高通算収率での不斉全合成を達成したいと考えている。また、ヤタケマイシンの各種誘導体の合成も行い、構造活性相関についての知見を得る予定である。
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