研究課題/領域番号 |
07041024
|
研究種目 |
国際学術研究
|
配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 学術調査 |
研究分野 |
人文地理学
|
研究機関 | 東京大学 (1997) 駒澤大学 (1995-1996) |
研究代表者 |
永田 淳嗣 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 助教授 (30218002)
|
研究分担者 |
VOON Phing K マラヤ大学, 東アジア研究科, 教授
泉田 英雄 豊橋科学技術大学, 建設工学科, 助教授 (70203057)
水島 司 東京大学, 大学院・人文社会系研究科, 教授 (70126283)
加藤 剛 京都大学, 東南アジア研究センター, 教授 (60127066)
立本 成文 京都大学, 東南アジア研究センター, 教授 (50027588)
|
研究期間 (年度) |
1995 – 1997
|
キーワード | マレーシア / 文化生態 / 地方都市 / 多民族国家 / 都市化 / 産業化 / 都市農村関係 / 都市史 |
研究概要 |
多民族国家マレーシアは、マレー文化をその基底に持ちつつも、中国人をはじめ、インド人、ジャワ人など文化的・社会的背景の異なる様々な民族集団を受容してきた。これらの民族集団は、植民地期から近代国民国家形成へと至る全過程を通じて、地域行政や経済・文化活動などの中核的場所として、数多くの都市・町を発達させてきた。本研究では、マレーシア社会の形成過程における地方都市の役割を重視し、諸集団がこの特定の地理的空間において形成してきた「共同体」の形態と性格を、都市発達の各段階での多面的な相互接触のあり方や文化景観などとの関係において具体的に明らかにするために、専門分野の異なる研究者が、それぞれの事例地域において詳細な実態調査を行った。 マレーシアにおける都市の発達は、1、植民地化初期の萌芽段階、2、植民地経済下での発展、3、独立後、とくに1970年代以降の新しい政治的、社会・経済的枠組みの下での発展・変容という3つの段階に分けて考えることができる。植民地化初期の都市の状況に関しては、水島がペラ州の王都クアラカンサルにおいて、商業地域、住宅地域の土地台帳の詳細な分析を行い、マレー人富裕層の都市形成への関与を明らかにした。ヌグリ・スンピラン州の王都スリ・ムナンティにおいては、加藤が都市誌の再構築を試み、植民地経済下における地方都市のマレー人の実態を描き出した。イギリス植民地下での都市行政、法規関係については、泉田が整理を行っている。 植民地経済下での都市の発展は、スズ、ゴムのプランテーション地帯を中心にみられたが、この間マレー人が都市成長の主役となることはなかった。クアラカンサルの中心商業地において、多くの土地と建物がマレー人富裕層から中国系住民の手にわたっていく様子は、水島によって詳細に分析されている。また、ジョホール州の農村部から都市部への長期的な人口移動の実態を家系復元によって分析した永田によっても、植民地経済下でのマレー人の都市への移動は、雑業ないしは下級公務員への就業が中心で、量的にも限られていることが確認された。 多民族国家マレーシアにおいて、マレー人が都市へ大量に進出するようになるのは独立後、とくに民族間の経済的格差の解消をめざした新経済政策が施行された1970年代以降である。しかし、永田の分析によっても示されているように、マレー人の都市中間層が無視できない存在となるのは、1980年代に入ってからのことである。 急速な経済発展のもとで、大きな転機を迎えているマレーシアの地方都市の状況に関しては、まず立本が、観光開発に力を入れている歴史都市ムラカで、周辺の農民・漁民をも巻き込んだ社会的・文化的変容のありさまを分析した。ジョホール州の地方都市クルアンでは、交口と川元が住宅供給を中心とした都市行政を、民族間のバランスの問題と関連づけながら、「タマン」と呼はれる新興住宅地の開発を例に詳細に分析した。クアラルンプール大都市圏の地方都市の状況に関しては、ブーンが、スレンバンにおいて実態調査を行っている。マレー系の都市住民の増加に伴う、都市部における教育の問題に関しては、国民統合の問題と絡めながら、杉本と村山(朝)が、それぞれジョホール・パルとクアラルンプール近郊において現状把握と問題点の摘出を試みた。 現代のマレーシアの国家的都市群システムの全体像の把握に関しては、村山(祐)が分析を行い、イギリス植民地期にはマレー半島における卓越した首位都市であったシンガポールに関しては、マレーシアの地方都市発展への影響という観点から、許が分析を試みた。東マレーシアについては、祖田と山本が、それぞれサラワク州のシブとサバ州のサンダカンを事例として、半島マレーシアとは異なる地方都市発達のメカニズムを明らかにした。以上の各研究分担者の詳細な事例研究を通じて、多民族状況とマレーシアを取り巻く政治経済的環境の変化に焦点を当てた、マレーシア地方都市の独自の「文化生態」モデル構築へ向けての見通しを得ることができた。
|