研究概要 |
『マハーバーラタ』と『ラ-マ-ヤナ』は,二千年来インド民衆に語り継がれて来た大叙事詩である。古代インドの文学集成とも言われ,理論,実用両知識の百科全書の観をも呈している.本研究は,このほど研究分担者の徳永宗雄が両者(それぞれ10メガバイトと2.9メガバイト)を,また中谷がパーリ仏典(15メガバイト)を電子テキスト化することに成功したのに伴い,叙事詩と仏典の韻律を比較することによって,叙事詩の成立過程を解明する事が目的であった。 パーリ仏典の韻律を参照しつつ,3万2千余の韻律パターンを内蔵する韻律分析プログラムを作成し,叙事詩の韻律を精査した。その結果,『マハーバーラタ』にはマートラ-律が168詩見いだされ,逆にガナ律は使用されていないことを確認した。マートラ-律が本来の柔軟性を完全に失って固定化されていること,ガナ律が使用されないことは,『マハーバーラタ』創作期がかなり遅いこと(3〜4世紀以降?)を示唆する。 しかし他方,仏教経典の最古層と比較したとき,I期:Suttanipata古層;II期:Suttanipata新層,Dhammapada;III期:Theratherigathaなど,と分けると古い伝承を伝える部分は,II期まで溯るという感触を得た。 また『マハーバーラタ』の1巻と2巻について,これを構成する34の章の韻律を比較し,(1)古形式を多く使う部分,(2)新形式の多い部分,(3)両者が併用される部分,に分けることができ,物語の主要プロットに関わる部分は古形式が多く,概括部,挿話部には新形式が多く使用されていることを確認した。これは『マハーバーラタ』成立過程解明への具体的手がかりを与えるものである。 以上の研究成果は,シンポジウム「人文科学における数量分析」(1996年3月11,12日,統計数理研究所)において発表し,当シンポジウム報告書,および文部省科学研究費重点領域「人文科学とコンピュータ」の1995年度研究報告書に詳細を報告した。
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