研究概要 |
人工現実感における人間の感覚統合と3次元空間認知の機序を情報制御工学,認知心理学,神経生理学の観点から探求し,臨場感・現実感・存在感との関わりあいを解明するための手法を確立することを目標としている.それと同時に,計算機により制御された極めて現実に近い仮想空間を人工現実感の手法で生成し,そのなかでの行動を通じて,人間や霊長類などの動物の感覚,知覚,認知,行動のメカニズムを,情報制御,認知,心理,神経生理など総合的な視点から解明する手段を明らかにすることを目指している.本年度の研究の概要を研究項目ごとに以下にまとめる. (i)感覚統合と認知に関する研究:臨場的感覚制御のメカニズム解明の第一段階として,三次元空間を頭部搭載型ディスプレイ(HMD)を介して提示した場合でも直接視の場合と同等の効果を生じさせるための提示条件を焦点調節の効果を中心に実験的に探求した.特に,所謂シースルー環境下に於いては,焦点調節の影響を無視できないことを実験的に明らかにした. (ii)臨場感,現実感の計量および評価に関する研究:臨場感成立の基礎とされる自己運動の感覚のうち,特に視覚情報による視覚誘導性運動感覚(ベクション)に関して研究した.実写とコンピュータグラフィックスによる抽象的画像によるベクションの差異を視覚刺激により誘発される身体運動を計測しつつ定量的に評価した.また,動きの情報と形態情報の統合過程の解明を動画を用いた三つの学習課題を1頭のサルで訓練し,上側頭溝領域を神経科学的手法で調べた. (iii)空間概念形成とその脳内表現過程に関する研究: AIP野と神経繊維連絡のあるLIP野後部あるいはV3a野の近傍で面の傾きに選択的なニューロン群を見つけ,頭頂連合野のニューロンが空間内の面の傾きの認識に重要な役割を果たしている可能性を明確にした.また,仮現運動の反転現象を用いて視知覚の時間分解能を調べた.その結果,視知覚の時間分解能は単一のものではなく,処理の複雑さに応じて変化しうるものであり,大脳皮質レベルの情報処理がそれに積極的に関与していることを明らかにした.
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