本研究の主目的はhedgehogに端を発し、ハエからヒトに至るまで進化的に保存されていると推定される形態形成遺伝子カスケードの構造機能を明らかにすることである。又、副課題として、分子進化解明に明らかに寄与できる可能性があると推定されたニトロ及びフラビン還元酵素の構造機能と進化との関わりを明らかにすることである。本年度は、特に後者において大きな進展があった。発光細菌よりフラビン還元酵素及びその遺伝子を単離し、構造と基質特異性を明らかにした。さらに前者と30%のアミノ酸配列上の相同性のある酵素として大腸菌よりニトロ還元酵素と遺伝子を単離し、その基質特異性が、フラビンを別にするとフラビン還元酵素と類似していることを見い出した。またこの過程で、ニトロ還元酵素とフラビン還元酵素は、多くの酵素とは異なり、進化的にdivergenceではなくconvergenceにより形成されてきたことを見い出した。ニトロ還元酵素遺伝子にランダムに突然変異を導入しフラビン還元酵素遺伝子への試験管内進化の可能性を検討した。その結果、それが可能であることを初めて明らかにした、実際、両遺伝子間で最も保存性の低い領域での一アミノ酸コドンの変化(124F->S)によりニトロ還元酵素が比活性が発光細菌のフラビン還元酵素の3倍も高いフラビン還元酵素に変換された。更に、124FをS以外の任意のアミノ酸に変換しても強い活性が維持されることから、ニトロ還元酵素の124Fは、基質特異性を負に制御していること、即ち、フラビンの結合を邪魔することで進化的にニトロ還元酵素になったことが判明した。
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