研究課題
基盤研究(A)
本研究会は平成7年度より平成8年度まで行われた。主題は、グローバリゼーションの進行によって、世界をおおうかたちで広がろうとするシステムの動きと、地域社会の自立を目指そうとする運動との、相互的なダイナミクスの現れと意味を探ることにあった。研究の開始が交付金の内定の遅れに伴いやや遅れたが、最終的に現在のグローバリゼーションとそれに取り組む人類学の位置について理解が得られた。すなわち、システムの周辺である日本において西欧と関係を持ちつつも独自の発展を遂げた日本の文化人類学(民族学)は、今後、いわゆる国際化によって、同一の国際学会というシステムの中で活動を行った方がよいのか。それは、かえって、世界システムといいながら実は「西欧」という一地域の世界大のヘゲモニ-の中に取り込まれていくことにすぎないのか。この議論の対立は、理論におけると共に、実践の難しい問題をふくんでいる。田辺の提出したタイにおけるエイズに対する、タイの宗教・文化の中での独自の取り組みも、それは西欧の医療を否定するものではないが、それをふくみつつ、その医学に対しては異なる評価を行いつつ世界志向システムと一線を画した対処だとも言える。山下のバリにおける観光、関本のインドネシアのバティック産業にも同様の構図を持った問題が見いだされる。これらの「日本の人類学」「タイのエイズに対する取り組み」などが、世界志向システムとしての国際的なアカデミズム、西洋医学による医療活動と、どのようなダイナミズムを今持ち、これからその関係はどのような形に向かうのか、は今後の議論にゆだねられた。15EA03:以上の経過を経て、ほぼ一年遅れで始まった本研究会は、ちょうど同時期に研究代表者の船曳建夫や分担者の山下晋司等によって企画された、全13巻にわたる文化人類学の研究シリーズ、『岩波講座 文化人類学』(岩波書店 1996〜98)の中にその成果を結実させることとなった。
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