ウランの三元化合物UNiSnは、43Kで半導体-金属相転移と磁気相転移の複合転移を起こすと見られていたが、本研究ではさらに構造の変化も伴っていることを確認し、輸送現象・磁性・構造の3種類の不安定性の絡み合いを総合的に調べた。本研究で得られた主な成果は次の通り。 1.磁場中で3.5〜300Kの温度範囲でX線回折実験が可能な装置を立ち上げた。磁場中低温でX線構造解析ができる装置はわが国では少ない。 2.比熱測定・メスバウア分光・磁気測定・X線回折・超音波弾性率測定によって、UNiSnの熱力学的・磁気的・構造的・弾性的性質を、複合転移の近傍に重点をおいて総合的に測定した。 3.UNiSnの相転移点における構造変化の詳細な測定から、磁場印加により反強磁性転移点T_Mが、立方晶(高温)から正方晶(低温)へ格子が歪む温度T_dと分離する傾向があること見いだした。 4.部分置換系U_<1-x>Th_xNiSnでは、2相分離の現象を見つけるとともに、それぞれの相を別々に解析すると、Th濃度とともに、両相とも複合相転移点のシフトの様子を始めて観測した。 5.UNiSnの上記の実験事実の詳細な解析から、格子変形は四重極子秩序によると考えられ、ウランの‰電子の電子状態について新しい知見が得られた。 UNiSnと同様に構造および弾性の異常と磁性が絡み合っているウランの他の三元化合物および類似のCe三元化合物についても、同じ手法でその‰電子の基底状態を決めることができた。
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