研究概要 |
前年度に構築した大気海洋結合モデルの大気・海洋部分を若干バ-ジョンアップし,106年間積分し,その気候値,季節サイクル,年々変動,十年スケールの変動の再現特性を調べた.その結果,赤道西太平洋の海上で不足しがちであった降雨が増加し,それに伴って赤道湧昇の範囲が以前より西へ及ばなくなり,気候値がより現実的になった.大気モデルの変更点のうち,放射過程に用いる雲パラメータ等の変更がもっとも影響が大きい,と考えられる.解析の結果,本モデルにおいては背の高い雲の温室効果と背の低い雲の日傘効果のコントラストが赤道太平洋の東西及び南北非対称気候に貢献していることが分かった.ただ,モデルでは観測データよりこの効果が強調され過ぎている恐れがある.東南太平洋で背の低い雲の効果を人為的に増減した実験の結果,東太平洋では北半球側の海面水温が1年を通じて南半球側より高い,という南北非対称気候をもたらす大気海洋間の相互作用は,西に広がろうとする性質を持つことが明らかになった.従って,例えばモデルで南北非対称を生じさせる大気海洋間のフィードバックが強すぎると,西太平洋での南北非対称が強調され過ぎて南太平洋収束帯の表現等が悪くなる可能性がある. 海洋モデルでは成層が安定な時の乱流による鉛直拡散を弱める変更を行った.この変更のみを取り出した実験の結果,赤道域の温度躍層の表現がより現実的になり,東西-鉛直面内の海洋循環,端的には赤道潜流が強まり,水温の東西傾度も現実に近付くことが分かった.さらには,このような気候平均場の変化は,エルニーニョの振幅の増大をもたらす.これは東太平洋での湧昇の変動が大きくなり,そこでの海面水温変動も敏感になるためである. 以上を結論付けるには定量的な解析及び実験が不十分である.また,西太平洋暖水域の南北幅が観測に比べ狭い等まだモデル気候の欠点も目立つ.引続き実験・解析を行ってゆく.
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