ヒドラの単純な散在神経系を用いて、その神経回路網形成の機構を、細胞レベルと分子レベルで明らかにすることを目的に検討を行った。細胞レベルでは、様々な実験系における神経網形成を観察し、それらを比較してその制御要因を解明することを、分子レベルでは、神経網形成に関係したペプチドシグナル分子の検索を行った。 1。細胞レベルでは、再生系と再導入系と正常系の3つの異なった実験系において神経網形成を調べ、それらの比較検討によって、重要な制御要因を明らかにする研究を行った。その結果、神経細胞の環境である上皮組織が神経細胞の分化・神経網形成にとって重要な制御要因であることが判明した。更に、成熟した神経細胞による神経分化抑制の機構の存在も判明した。 2。分子レベルでは、ヒドラの発生制御に関与するペプチド性シグナル分子の大規模スクリーニングのプロジェクトをすすめた。その結果、神経網形成にとって興味あるペプチドが得られた。ひとつは、C末にLPWの共通配列をもつ4種のペプチドメンバーよりなる、PWファミリーで、神経細胞の分化を抑制する活性のあることが判明した。また1種のペプチドHym355は、神経分化を促進することが判明した。更に、これらの神経分化を制御するペプチド分子の作用機構解明の一環として、PWファミリーとHym355に対する抗体を作製し、その局在を検討した。LPW抗体は、上皮細胞を染色し、Hym355抗体は神経細胞を染色した。LPWペプチドは、上皮細胞から分泌されて神経分化を抑制する環境因子で、Hym355は、成熟神経細胞から神経細胞の分化を促進する因子であることが示された。
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