クラミドモナスの野性株、oda 11株の鞭毛電顕像の比較から、外腕ダイニン分子の重鎖(=頭)の数が3つか2つかを鞭毛・繊毛の超薄切片横断面像で予測することが可能である。ウニ精子を含む多細胞動物の鞭毛・繊毛では、生化学的研究結果と一致して、外腕ダイニンは総て2頭構造であった。腔腸動物のイソギンチャク精子鞭毛でも同様であったが、生化学的に分離したもののネガティブ染色像で確かめるまでには至らなかったので、この点は来季の課題となった。側生動物カイメンの鞭毛の外腕も2頭構造と認められたが、原生動物の繊毛では3頭構造であった。尚緑藻のオオハネモの遊走子、配偶子鞭毛は3頭構造であり、コケ、シダの精子鞭毛には外腕そのものが欠けていた。 ウニ精子アクソネ-ムの外腕ダイニンは2つの重鎖と3つの中間鎖、7つ以上の軽鎖よりなる。当研究期間において2つの中間鎖の遺伝子クローニングをおこなった。その結果、2つの中間鎖は互いにホモローグであり、分子中に5ヶ所のWDリピートが存在していた。WDリピートはタンパク質とタンパク質の相互反応に関与する配列と考えられているので、これらの中間鎖はダイニンを安定な構造体としてダブレット微小管に結合させているのに関与していると結論した。またクラミドモナスの外腕ダイニンの中間鎖、細胞質ダイニンの中間鎖との一次構造の比較から、ダイニンの中間鎖のうちWDファミリーに属するものは3つのサブクラスにわかれることを明らかにした。現在最後の中間鎖の遺伝子クローニングを終えつつあり、これによってすべての中間鎖の構造が明らかになり、鞭毛運動のメカニズムがより明らかになると確信している。
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