研究概要 |
膵ランゲルハンス島(以下ラ島)移植は、手術手技が簡単で反復施行も可能であり、全膵移植より合理的かつ非侵襲的な治療法である。しかし、ラ島移植では、分離直後のラ島細胞のviability維持が重要な要因となっていて、このviabilityをできる限り良好に維持する保存法の確立および保存後のviabilityの簡便かつ正確な評価法の確立が望まれている。c-AMPはラ島細胞内での情報伝達系の重要な因子であり、インスリン分泌のセカンドメッセンジャーとしての役割を果たしている。その濃度は、GTP結合蛋白を介してadenylylcyclase(以下AD)が活性化されることによって上昇し、これに続くいくつかの過程を経てインスリン分泌を促す。本研究では少量のラ島細胞に含有されるAD活性を従来の放射性活性物質を用いず、酵素変換、増幅反応を用いる蛍光法で測定した。即ち、保存後の分離ラ島細胞のviabilityの指標としてのAD活性と細胞機能の指標としての移植(ラット同系移植、ヒト自家移植)後血中glucose値に相関関係を求め、AD活性が分離ラ島における細胞機能の指標として有用であるかどうかを検討した。また、各保存液を用いて0〜96時間保存し、各保存時間後のAD活性および血中glucose値を経時的に比較することにより保存液および保存時間のラ島機能に及ぼす影響をも検討した。 1.長期保存後の分離膵ラ島について24時間まではUniversity of Wisconsin液群が他群(Euro-Collins液群、Lactate-Ringer液群)と比較し、AD活性値は高値であった。 2.STZ糖尿病ラットに約1,000±10個のラ島を同系移植し、移植前AD活性値と移植後の血糖値を比較すると、移植前のforskolin刺激によるAD活性値が65〜70fmol/min/islet以上なら移植後euglycemiaを維持できることが判明した。 3.ヒト膵全摘後4例に自家移植を行った。移植前のforskolin刺激によるAD活性値が65fmol/min/islet以上であった3例は移植後6〜9カ月の現在、インスリンは不要で経過している。 以上より移植前のAD活性値の評価は移植後のラ島機能評価の有用な指標と成り得ると結論した。
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