研究概要 |
雑種成犬29頭で90分超低体温逆行性脳灌流を行った。21頭では15,25,35各mmHgの灌流を各30分行いカラーマイクロソフェア法にて脳組織血流分布を測定した。両側顎静脈送血(上大静脈送血無し,n=4)では有効脳組織血流は観察されず、上大静脈送血併用矢状静脈洞送血17例中後方送血、側孔付きカニューラ使用例各4例(計8例)でも同様であった。側孔なし前方送血・上大静脈送血併用(9例)でのみ有効脳組織血流が観察され、25,35各mmHg送血での脳組織血流は全脳、前頭葉皮質で各3.8,4.6及び12.1,13.6ml/min/100gで、15mmHgでは前頭葉皮質でも4.0に過ぎなかった。脳細胞内pHは15mmHg灌流群8例では6.58±0.14と低く、25mmHg灌流群6.93±0.11と60分循環停止群(8例controll study)6.27±0.16の中間値となった。脳細胞内pHmapでは、25mmHg灌流群でも前頭葉で他部位より高いpHであったが、15mmHg灌流群では後頭葉・小脳のpHは低く循環停止群と同等であった。脳内ヘモグロビン・酸素飽和度の検討は8例で行った。25mmHg灌流により脳内ヘモグロビンは230-250g/1、酸素飽和度68-77%を維持可能であり、逆行性脳灌流中は低下せず上昇傾向が観察されたが、前方灌流例ではやや不良であった。実験的逆行性脳灌流法による脳全域のpHの維持と脳実質内組織血流の証明はいずれも世界初の知見であるが、Hyperfrontalityを認め全脳の均等な血流分布は観察されていない。現在は均等な血流分布を実現する実験モデルの開発を種種の灌流形態を用い進めている。しかし、PSA-IIINによる脳内ヘモグロビン・酸素飽和度の測定結果は脳内酸素飽和度の上昇傾向を示しており、近い将来に実現可能と考えている。
|