研究課題
平成7年度は凍結保存した静脈を動脈に移植することにより病理学的な検討を加えたところ、通常の自家移植で見られるような平滑筋細胞の脱分化及び増殖とそれに伴う内膜肥厚に加えて、石灰化や内膜を構成する細胞の細胞核の減少といった変化を確認した。平成8年度は凍結保存した動脈を動脈に同種移植することにより病理学的な検討を加えたところ、移植後1週には内皮細胞の脱落をみとめ、。移植2週においては一部に内皮細胞の再生を認めた。また、静脈よりも頻度が少ないが一部に石灰化を認めた。しかし、平滑筋の増殖や内膜肥厚を認めなかった。即ち、免疫反応が関与しない同種移植モデルにおいても、凍結保存の操作によりこれらの反応が生じるのではないかと考えられた。また、内皮細胞の脱落によって異種間の免疫反応が軽減することにより凍結保存グラフトのほうが新鮮グラフトよりも開存率がよいという報告もあるが、臨床的には凍結保存グラフトの成績は今だ満足すべきものではない。そこで、我々は、凍結保存法によるグラフトの開存率を向上させるために、現在、HVJリポゾーム法を用いたグラフトに対する遺伝子導入法を検討中である。HVJリポゾーム法は遺伝子効率がよく、我々は以前、静脈グラフトに細胞周期を制御する遺伝子導入を行いその効果について報告してきたが、今後は凍結保存法における遺伝子導入の効率に関する検討及び、遺伝子導入後の組織学的検討も行っていく方針である。さらに、同種移植だけでなく異種移植も行い、異種移植においても同様の検討をすすめ、同種と異種移植における違いを比較検討する方針である。