研究課題
基盤研究(B)
欧米を中心に凍結保存グラフトの臨床応用がなされているが、その開存成績は今だ満足すべきものではない。そこで我々は、HVJリポゾーム法を用いて遺伝子導入による開存成績の向上の可能性について検討をおこなった。遺伝子導入効率がよいHVJリポゾーム法を用いて、静脈グラフトに細胞周期を抑制する遺伝子導入を行い、その効果について証明を行ってきた。ひきつずき、凍結保存グラフトにHVJリポゾーム法を用いて遺伝子導入を試みているが、開存グラフトは得られておらず、現在も、遺伝子導入とその効率に関する検討を行っているところである。初年度において、家兎を用いて凍結保存プログラム及び長期慢性モデルの検討を行った。頸静脈を摘出し、プログラムドフリーザ-により急速凍結し、一定期間保存した後、このグラフトを頸静脈に自家移植を行った。その結果、長期開存グラフトを得ることができ、凍結保存プログラムを確立した。病理学的な検討を行ったところ、通常の自家移植で見られるような平滑筋細胞の脱分化及び増殖とそれに伴う内膜肥厚に加えて、石灰化や内膜を構成する細胞の細胞核の減少といった変化を確認した。即ち、免疫反応の関与しないメカニズムにおいても、凍結保存操作によりこれらの反応が生じていると考えられた。同様に、凍結保存した動脈を動脈に同種移植を行ったところ、移植後1周には内皮細胞の脱落を認め、移植後2週においては一部に内皮細胞の再生を認めた。しかし、静脈でみられたような平滑筋の増殖や内膜肥厚は認めなかった。今後、さらに、HVJリポゾーム法による凍結保存した血管への遺伝子導入を確立し、その有用性について証明していくことが必要とおもわれる。