今年度は竺法護訳『正法華経』の一つ一つの語彙を『漢語大詞典』『大漢和辞典』などに当たって確認しながら読み進めた。そして、従来の漢語辞典・語法書に出ていない語彙・語法、あるいは採録されていても西晋代以降の文献に拠るものはカードに採り、英訳語を付し、さらに梵本(校刊本と諸写本)・鳩摩羅什訳『妙法蓮華経』(まれにチベット語訳)との対応個所を併記するという作業をした。今年度中に『正法華経』全十巻のうち八巻のカードを採り終わり(約三千項目)、昨年末からは研究補助者に依頼して、カード記載事項をコンピュータに入力してもらっている。 これまでの研究で分かったのは、 1.まず刊本に関して、『大正大蔵経』が底本としている高麗蔵と『中華大蔵経』が底本としている金蔵とが優れており、磧砂蔵など宋・元・明本には意味が通る様に恣意的に書き改めた個所が多いということである。 2.竺法護訳『正法華経』は中央アジア出土の梵本と実によく対応していること。 3.鳩摩羅什訳『妙法蓮華経』にも辞典・語法書に出ていない口語表現が少なくなく、今回の研究と同じ方法で羅什訳も研究する必要があるということである。
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