竺法護訳『正法華経』(A.D.286)の一つ一つの語彙を『漢語大詞典』などに当たって確認しながら読み進めた。従来の漢語辞典に出ていない語彙、あるいは採録されていても西晋代以降の文献に拠るもの、仏教語、音写語、口語的語法などを集め、項目毎に梵本(校刊本と中央アジア出土写本)および羅什訳『法華経』の対応語を併記するという作業を完成した。約四千の語彙を取り上げ、カード総数約一万五千枚に上る。また研究補助者に依頼して、カード記載事項をコンピュータに入力してもらった。入力されたものを筆者が再度確認し、辞典の形に整えた。 この『法華經詞典』と題した冊子は、幾つかの点で従来の漢語辞典やIndexとは異なる。(1)まず、一つの経典に出る全語彙を検討した上で作成されたものであるということ。(2)共同作業ではなく独力でなされたこと。(3)現代中国語音(ピンイン)の順に配列されているということ。(4)説明を英語でなし、漢語を日本語で説明する際の曖昧さを排したこと。(5)例文を出来る限り引いたこと。(6)梵本、異訳経典(『妙法蓮華経』)の対応する語を示したこと。 この『詞典』に引いた例文には、新しい句読を施し、筆者の解釈、読み方が分かるようにしてある。今まで難解で殆ど研究されていなかった『正法華経』がこの『詞典』により、幾分なりとも読めるようになったと思う。 今後は同様の方法で羅什訳『妙法蓮華經』や他の漢訳仏典ごとの辞典を作り、最終的にはそれらをまとめて、漢訳仏典を材料にした『仏典漢語大詞典』の形にまとめたいと思う。
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