本年度は、対人関係における葛藤的な側面とサポ-ティブな側面とが人の適応にいかなる影響を及ぼすのかを検討するため、以下の3つの調査を行った。 第1に、大学への新入生を対象にした縦断的デザインによる調査である。この調査は、大学新入生が入学後の新たな環境に適応してゆく過程で、家族との対人関係と友人との対人関係とが、それぞれどのような役割を果たすかを検討することを目的とするものである。4月、7月、10月の3度にわたって収集されたデータの分析によって次のことが明らかとなった。まず、友人との対人関係の否定的な側面である葛藤の影響は、適応の初期段階において大きく、逆に対人関係の肯定的な側面であるサポートの影響は適応の中期から後期段階において大きくなった。また、家族との対人関係は入学直後からすでに影響力が小さく、むしろ、母親の養育態度の影響が大きく、かつ安定していた。 第2に、男性の社会人を対象として、対人関係の質と健康との関連についての調査を行った。この調査では、対人関係と健康との関連のあり方が、個人のもつ性役割態度によって異なることが明らかとなった。伝統的な性役割態度をもつ男性は、平等主義的な性役割態度をもつ男性と比較して、職場での葛藤が職場以外の生活領域に浸食しやすく、また職場での対人関係が健康と密接に関連することが分かった。これに対して平等主義的な性役割態度をもつ男性は、職場以外の生活領域での対人関係が健康に影響しやすく、そこでのサポ-ティブな関係は健康を維持、促進するのに対して、葛藤的な関係は健康を損なうことが示された。 第3に、看護婦のバーンアウトに及ぼす対人関係の質、ストレッサー、ならびに性格特性の影響を調べる調査を行った。結果は多岐にわたるが、大きく次の3つにまとめることができる。まず、外向的な個人は、職場環境のストレッサーの悪影響を、職場での対人関係の良好さによって軽減できることが分かった。次に、職場以外の対人対人関係は、性格特性や職務ストレッサーの程度に関わらず、看護婦のバーンアウ傾向を低減させていた。さらに、職場での上司との関係が良好なものであることで、職場の構造的なストレッサーの悪影響を少なくできるとともに、上司からのサポートを得ることで、バーンアウト傾向が小さくなることも明らかとなった。なお、これらの影響過程に関してより確かな因果分析を行うため、1回目の調査から6カ月後に、同じ看護婦のサンプルからパネルデータを収集しており、現在それら縦断的なデータの分析を行っている。
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