アメリカ合衆国の女子大学の存続危機の具体的要因は、ほぼ以下の3点に要約されうる。 (1)18歳女性(特に伝統的に女子大の有力な顧客であった白人、中・上流家庭出身者)の減少。 (2)女子大卒業者は、キャリア獲得、社会生活への順応という両面で、女子大の教育を高く評価し極めて高い満足度を示すものの、志願者およびその親たちの女子大教育へのネガティブなイメージが定着していったこと。 (3)過去30年間における、アメリカ合衆国全体で進んだ教育へのアクセスと平等を目指す運動の影響。特に、1982年のミシシッピ-州立女子大対ホ-ガン訴訟の結果(同大の看護学部が男性の志願者の入学を拒否したのは憲法違反との判決)は、このようなジェンダーによる区別への一般的忌避を増大させた。 これに対して、存続危機の回避への経営戦略および「建学の精神」の確立は、基本的に、このような要因に逆作用するものとして位置づけられている。具体的には、 (1)顧客層の特定(どのような層に対して「建学の精神」がアピールされるのか)、 (2)カリキュラム改革(“実戦的"リベラル・アーツ教育、成人女性への勧誘、さらには女性学研究の成果を踏まえ女性への特別なケアを取り入れた教育プログラム) (3)大学基本財産の拡大のためのキャンペーン、などである。 なお、女子大存続危機の一方で、男女共学に対するフェミニズムの側からの疑義申し立てにも一定以上の評価がなされているという事実は注目に値する。すなわち、歴史的に女子大学は何度も存続の危機に晒されてきたが、80年代以降のそれは、教育におけるジェンダーの問題への極めて根源的な問い掛けを提起したことである。
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