研究概要 |
今回の研究では、上高森遺跡,袖原3遺跡の発掘調査を通じて、次のことを明らかにした。(1)日本列島の前期旧石器の系統に関して、これまで定説として唱えられてきた,東アジアの「礫器文化」に属するのではなく、アフリカ・中近東と共通する「アシューリアン」石器群と関連する可能性を明確にした。(2)また、遺跡の石器は、単にごみとして捨てられたのではなく、原人の移動の過程で極めて計画的に残された補給のための備品であることをモデルを使用して明らかにした。(3)上高森遺跡で3カ所見つかっている「埋納」遺構の発見により、原人が将来に備えた貯蔵という行為ばかりでなく、何らかの儀礼を行っていたことが明らかになり、補給のシステムも考え合わせると原人がこれまで考えられてきたような原始的な知能の段階ではなく、高い知力と応用力を持った人類であることを証明した。この問題については、現在、米国の『人類進化誌』に英文で投稿中である。(4)今〓の前期・中期旧石器研究の今後の展望については、特に、石器群形成に関連する諸問題について単なる石器の形態や組成比だけから「文化」や「時期」を設定することの不十分さを力説した。遺物として残された石器群がどのような過程を経て今ある姿になったのかに関する背景について、新しい分析の視点と方法を作る必要があり、そのために、石器群分類の新しい方法の創出を目指す。これに関しては、考古学協会の発表、国際第四紀学会の発表などがあり、現在袖原3遺跡、上高森遺跡の報告書を準備中である。今回の研究がこの分野の最先端のものであると自負している。
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