本年度の研究では、第一に前年度に引き続いて南北経済の不均衡に関するマクロ動学モデル分析をおこなった。 南北経済は北の資本集約的投資財に対する南の一次産品型生産構造、北の寡占的市場に対する南の競争的市場行動、北の熟練労働に対する南の単純労働、北の労働・土地制約に対する南の資金制約、北のイノベーションに対する南のイミテーション等、多くの点で異質な経済構造を有している。本研究では北の新技術導入に焦点を当てたダット(A.K.Dutt)の研究に基づきながら、それを企業の投資行動と財市場の不均衡を許す短期・中期的分析に拡張した分析を行ない、北の中間財投入節約的な技術導入が北の利潤率の減少、南の交易条件の悪化という逆説的な結果を生む可能性があることを示した。第二に、Direction of Tradeを用いた実証研究については、世界を6つの地域に分割した貿易マトリックスを作成し、1980年から1992年までの12年間の世界経済の貿易構造の特徴と変化が明らかにされた。1985年のプラザ合意は北米を中心に日本、欧州、大洋州諸国の輸出に大きく影響したこと、工業諸国の輸出に比べ途上国、特にASEAN諸国の対OECD輸出は85年頃を境に急激に増大に転じていること等が明らかにされた。これは工業国と途上国間の輸出に長期的・構造的要因が関わっていることを示唆している。さらに輸出額の推移に及ぼすGDPや為替レートの影響について回帰分析が行われた。第三に、昨年からの継続作業として、大震災で大きな被害を受けた神戸・阪神地域の復興に対外貿易がいかなる関わりを持つかを検討した。被災地企業の弱体化と被災地の人口減少が東南アジア等からの製品輸入による価格破壊と結びつき、被災地の中小企業や自営業、小売店の経営回復を妨げていること、被災地の産業・雇用回復には貿易主導型産業育成政策から被災者の住宅や生活再建を中心においた福祉行政への切り替えが政策的に重要であること等が示された。
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