本研究では貿易不均衡を次の三つの視点から明らかにすることを課題とした。第一に、貿易不均衡を内需拡大によって解消することの有効性をメッツラ-所得・貿易モデルを基礎に検討すること。その結果、(1)先進国間貿易モデルでは双方的な内需拡大は不均衡を必ずしも解消しない、(2)先進国・途上国間貿易モデルでは途上国側の内需拡大が長期的に有効でありうることなどが示された。本モデルはメッツラ-モデルに不均衡調整ルールを導入し、所得移転や資本移動を考慮した点が特徴である。第二に、貿易不均衡を南北経済の視点から捕らえることである。北の資本集約財に対する南の一次産品、北の寡占市場に対する南の競争市場、北の熟練労働に対する南の単純労働など南北経済には多くの異質性が存在する。その中で近年、北のイノベーションと南のイミテーションに焦点を当てた研究が注目されている。その一つとしてダットの研究を取り上げ、企業の投資行動や財市場の不均衡を含む短期・中期分析を試みた。その結果、北の中間財節約的な技術進歩が均等利潤率を低下させる可能性があるという逆説的な結果が得られた。第三に、世界の貿易不均衡をIMFのDirection of Trade Statisticsのデータを用いて実証的に検討することである。161カ国の貿易データをわが国を中心に6つの地域に分割し、1980年から1992年までの12年間の貿易マトリックス系列を作成し、貿易構造とGDPや為替レートの関係を簡単な回帰分析で検討した。最後に、阪神大震災と貿易に関わって、被災地の雇用の回復には高齢化や企業の海外進出など日本経済の構造要因が複合的に関わっていること、特に企業の海外流出と逆輸入が震災によって加速しており、これらが被災地の復興を一層困難なものにしており、この解決に福祉重視の内需拡大が重要であることを論じた。
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