当初予定に沿って、二通りの作業を進めた。 第一に、国際政治経済学の主要潮流の一つである覇権国理論について、その登壇の背景、発展の足取り、諸類型(覇権安定論と二種類の覇権循環論)の特徴と相関関係を明らかにしながら、全体的なサーベイを試みた。とくに覇権安定論の吟味に力を入れ、同理論が覇権国理論全体に占める位置を探った上で、その思想的系譜(リアリズムの精神を基調として受け継いだネオ・リアリズムの流れ)、基本的な論理構造、そこに取り込まれた国際公共財論の特質、さらにそれらに対して国際政治経済学の他潮流等から投げかけられてきた多様な疑念や批判を網羅的に検討した。これを通じて、国際公共財論が覇権国理論の中枢部分に据え付けられていること、およびそこでの国際公共財理解の特徴点を明らかにすることができた。国際公共財の定義の曖昧さ等、種々の軽視しえない欠陥が認められたが、それだけでなく「国際公共財の私的財化」の視点のような現実理解の鍵も含まれているということを知りえたのが、今後に活きる貴重な成果ではないかと考えている。ただし、国際公共財に関しては相互依存論派による理解との異同が理論的にも実践的にも大きな意味をもっているように思われるので、続いてその点の解明を急ぐ所存である。 第二に、覇権国理論それ自体やそこに内在する問題点(その背後には国際政治構造の変化がある)とのかかわりに留意しつつ、ポスト冷戦の世界秩序に関する諸種のシナリオ(パックス・アメリカ-ナの再来、日米共同覇権、トリゲモニ-、ブロック化等)をひとわたり概観した。
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