研究概要 |
当初予定に従って、国際政治経済学の主要潮流の一つである国際的相互依存論の内容検討と基本的特徴の検出に力を入れた。(1)伝統的リアリズムの破綻と経済のトランスナショナル化を背景に同理論が登場した経緯、(2)初期には経済的相互依存がそのまま世界国家の到来につながるかのような論調が目立ったのに、経済関係の濃密化とともに経済摩擦が激化するという現実に直面して相互依存論の変質が生じ、いかに相互依存を管理するかに実践的関心が寄せられるようになったこと、(3)代表的論客であるRobert O.KeohaneとJoseph S.Nye,jr.が提起した「複合的相互依存」モデルの特質とそれが本質的にレジーム論に傾斜する性格をおびていること、を順序立てて明らかにした上で、さらに(4)レジーム論の理論的吟味、および(5)ポスト冷戦体制の行方を決める国際レジームの実態分析に着手するところにまで研究を進めることができた。 相互依存論は総じて国際政治経済学の主流をなす覇権安定論のアンチテ-ゼ的な位置を占めてきたと言ってよかろうが、同理論がレジーム論主体のものになった今日では両者の対抗の側面だけでなく、双方がともに国家中心の議論として実質的に相互に補完しあう関係も生まれるに至っている。両者それぞれの核心にはめこまれている国際公共財論とその客観的意義を考察すればその関係が鮮明に浮かび上がることになるが、新たに得られた知見としてはこれが最も大きい。
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