新たな一次元炭素結晶と思われるカーボライトは、これまでに知られているカルビンと同様に得られる量がわずかであるため、その構造が分かっていない。ただ軸方向に長周期構造があることが実験から示唆されている。このことからキンクのある炭素鎖が基本構造の候補と考えられているが、現在まで理論的にキンクを持つ長周期構造の炭素鎖の安定性は確認されていない。 本研究では、まず炭素の1本鎖の最安定構造を第一原理的構造最適化計算によって探索した。その結果はキンクの無い直線状の構造で、パイエルス転移による2個周期の結合交代を持つ炭素鎖が最安定であった。これより長い長周期構造は無限の1本鎖ではあり得ないと結論できる。 次に、長周期構造を持つ可能性のあるものとして、2本の炭素鎖が周期的に結合した構造について調べた。最も基本的と考えられる3個の構造を提案し、それらの安定構造を1本鎖と同様の方法で探索した。今年度は周期の最も短い場合しか扱えなかったが、これらは全て安定構造になることが確認できた。今回の構造は化学結合的にはかなり無理のあるものであったが、それでも安定であることからより長い周期を持つ場合には1本鎖より安定になることが予想される。 今後の研究の展開としては、最安定な周期構造を持つ2本鎖の構造を探索すること、並びに端に異種分子が付いた有限長の1本鎖と2本鎖の安定構造を調べることがまず挙げられる。本研究は萌芽的研究であり、今年度は成果を公表するまでに至っていない。研究発表欄に記載したものは、炭素物質についての関連研究の成果に関するものである。
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