新たな一次元炭素結晶カーボライトは、これまで知られているカルビンと同様に軸方向に長周期構造を持つことが実験的に示されている。このことはキンク構造のある炭素鎖が基本構造であることを示唆しているが、現在までにキンクを持つ一次元炭素鎖の安定構造は理論的に確認できていない。 本研究では、昨年度一次元炭素鎖の安定構造を第一原理的構造最適化計算によって探索したが、炭素のみからできる一次元鎖はキンクを持つ構造は取り得ないという結果になった。また炭素鎖が結合した構造では長周期構造を取りうることが分かったが、その構造はかなり不自然なものであった。 その後、カーボライトには多量の水素が含まれていることが分かったので、今年度は水素が付加された炭素鎖の安定構造とその電子状態を第一原理計算によって調べた。その結果、水素が付加した炭素の位置には自然にキンクが生じること、キンク間の炭素数が偶数の場合には安定な構造が存在し非磁性半導体になること、一方炭素数が奇数の場合は安定性は低いが反強磁性的な状態となる構造が存在することが分かった。この電子状態の違いはキンクの存在によって自然に説明できることも分かったが、未だ実験から示唆されているカーボライトの構造と一致するものは得られていない。カルビンの構造の探索と伴に、次年度の課題である。 本研究は萌芽的研究であり、最終的な結論を得て公表する段階には至っていない。研究発表欄に記載したものは、炭素系物質についての関連研究の成果である。
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