分子量が1、000のオーダーのデキストランの濃厚溶液が、SDS存在下で蛋白質をふるいわける機能を持っていることの発見が本研究の出発点となっていた。第一年度である7年度においては、以下のような検討を行った。(1)発見された現象が、十分に再現性良く観測されるものであることを確認した。(2)ゲルあるいは絡み合い高分子濃厚溶液については、相対電気泳動移動度の対数と濃度の間に直線関係が認められる。問題のデキストラン溶液に関してはシグモイダルなプロットが得られた。このことは、見いだされた分離が在来の分子ふるい効果にもとづくものではないことを示している。(3)問題のデキストラン溶液の粘度の濃度依存性を測定したところ、良好な直線性が認められ、網目構造の形成を示すような異常は検知できなかった。この測定に際しては、使用可能な試料量に制限があったので電気泳動用のキャピラリーとキャピラリー電気泳動装置を用いた自作の微量粘度計を用いて成功を収めた。(4)問題のデキストランとSDS存在下での蛋白質の円偏光二色性スペクトルを測定したところ、蛋白質とSDSの間に形成される複合体のコンフォメーションにデキストランの在来は顕著な影響は及ぼしていないことを確認できた。以上の結果は、我々が見出した現象が存在のゲルあるいは絡み合い高分子濃厚溶液に見出される通常の分子ふるい効果とは異質なものであることを示している。
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