本研究は、代表者である高木が当時に大学院博士課程後期学生であったM.R.Karimとともに見い出した新規現象の原理解明を目的として企画された。見出された現象は以下のようなものであった。分子量が1、000程度のオリゴ糖、デキストラン、の10%程度の濃厚溶液にSDS(ドデシル硫酸ナトリウム)を添加して調製した媒体をキャピラリーに詰めて蛋白質の電気泳動を行うと、一見したところでは高分子量のデキストランの数%溶液が示すサイズ依存分子篩い効果と見紛うような分離が観察された。 第一年度においては、上記の現象の再現性、オリゴデキストラン濃厚溶液中に網目構造が存在しないこと、等々の確認に費やされた。その結果、見出された現象は確固としたものであることが確認された。 第二年度においては、現象の背景にある原理の解明が課題であった。しかし、高木が平成8年度末の定年退官を控えていることが、研究の積極的な展開を妨げた。本研究に従事していた留学生1名が帰国し、院生1名が健康上の理由で退学した。新規の人員投入は当事者の将来を考えて避けた。本研究プロジェクトは第一年度で充分な成果を挙げたとの自負しているので、第二年度での実務的研究活動の低下は容認されるものと確信する。しかし、本年度においては、交付金の主体をなす旅費を活用して多方面の研究者と、本研究課題について討議する機会を得ることができた。その結果、『見出された現象は、SDS-蛋白質複合体が濃厚オリゴ糖溶液中において、その挙動を“素抜け的な疑似高分子電解質鎖"から“非素抜けで包含溶媒量が減少した比較的にコンパクトなグロビュール"に転化することの反映である』との作業仮説を立てることができた。退官後の研究活動には制限も多いが、ある程度のの実験活動は可能である状況を設定しているので、上記の仮説の検証を行って、未完となった本研究プロジェクトの完成を心掛けたい。
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