1.前年度に、肝伊東細胞においてレチノール結合蛋白(retinol binding protein:RBP)の特異的な取込が認められなかったことを報告した。原因として、RBP単離過程において高次構造上変化し細胞への取込に影響を及ぼした可能性や、伊東細胞の単離精製の過程で細胞表面の受容体が変化した可能性が考えられた。しかしながら、伊東細胞におけるRBP受容体の発現を報告したBlomhoffらも、我々と同一の実験系を採用している。Blomhoffらの報告の後、RBP受容体の存在を確認する論文はなく、この点に関しては改めて議論の対象となっている。少なくとも我々の成績は伊東細胞におけるRBP受容体の存在を支持せず、この存在を前提とした、伊東細胞を標的とするドラッグ・デリバリー・システムの確立は再考を要するものと考えられる。 2.導入する特異的コラーゲン合成抑制剤として、前年度、抗アレルギー剤であるトラニラストを検討していることを報告した。今回、トラニラストのコラーゲン合成抑制作用につき、さらに検討を加えた結果、(1)トラニラストのコラーゲン合成抑制作用は遺伝子発現レベルであること、(2)トラニラストのコラーゲン合成を刺激するサイトカインであるTGFβ1の遺伝子発現を抑制することが明らかとなった。TGFβ1の発現抑制がコラーゲン合成抑制作用の機序の一つである可能性が推定された。
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