近年、精神分裂病の新たな病因仮説として、興奮性アミノ酸受容体の一つであるNMDA受容体を中心とする興奮性アミノ酸伝達の低下説が最近提唱されてきている。本研究の目的は分子遺伝学的手法により精神分裂病患者でこのNMDA受容体遺伝子とくにNMDARI遺伝子の異常があるかどうかを検証することである。 NMDARI遺伝子はこれまでの分子遺伝学的研究により、ヒトの9番染色体長腕34.3領域(9q34.3)にマッピングされ、938のアミノ酸をコードする13440塩基対のDNAから成ることが既に知られている。平成7年度から平成8年度では、まず対照研究として正常人を対象とし、このNMDAR1遺伝子のDNA多型性部位の検出を行い、その遺伝子多型の発現頻度を調べることを目的とした。 13例の正常人ボランティアを対象に、彼等の内諾の下に末梢血液を7cc採取し、そのリンパ球からDNAを抽出した。次にRT-PCR法によりプライマーと遺伝子増幅装置を用い、NMDAR1遺伝子領域の受容体としての機能に重要なglutamate結合部位であるexon12-19の2840の塩基対のDNAを増幅した。さらにRFLP法により制限酵素(Stu1)を用いてNMDAR1遺伝子のexon12-19の間でのDNA多型性部位の有無を検討した。結果として、13例のすべてで予測された三つの制限酵素認識部位で切断され、多型性部位は検出できなかった。現在なおこの正常者を対象とする多型性部位の有無を検討中である。
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