平成9年度においては、当初の計画に従い変異E1AF遺伝子を導入したPC-3を用い、in vivoにおける転移能を検討した。方法は、4週齢の雄ヌードマウスをdiethylether麻酔下に開腹し、膀胱頚部に存在する前立腺にcontrolとしてPC-3にvectorのみを導入した細胞あるいは変異E1AF遺伝子を導入したPC-3を1×10^5個を0.02mlのPBSに浮遊し27ゲージ針で移植した。同時に開腹創から除睾術を行い、閉創した。4週間後にマウスをdiethylether麻酔にて屠殺し、開腹後前立腺ならびに骨盤内リンパ節を摘出した。同時に肝、肺を摘出し、表在する転移の有無を確認した。摘出物をホルマリン固定し病理組織学的検索を行った。両群ともに前立腺での腫瘍形勢が認められた。肺、肝にはいずれの群においても肉眼的、病理組織学的に転移は認められなかった。Control群であるvectorのみを導入したPC-3を移植した5匹中4匹(80%)にリンパ節転移を認め、変異E1AFを導入したPC-3を移植した6匹中4匹(67%)にリンパ節移転が認められた。変異E1AF遺伝子の導入よるin vivoにおける転移抑制効果は、in vitroにおける浸潤能抑制を必ずしも反映していなかった。今回の検討では、除睾術の時間、ならびに観察期間の問題が関与していることも否めないが、in vivoにおける宿主側の転移に関わる因子の関与も今後検討すべき課題であると考えられた。
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