明暗の変化に適応するエッジ検出神経細胞(網膜双極細胞)の空間フィルタ特性を調べるための電気生理実験および計算機シミュレーション実験を行なった。網膜研究では空間フィルタのことを受容野とも呼ぶ。エッジ検出神経細胞の受容野は拮抗する中心野および周辺野から構成されるが、主に中心野の特性について調べた。 電気生理実験:エッジ検出細胞には明所視に関与する錐体系と暗所視に関与する杆体系があるが、ここでは主に杆体系を対象とする。中心野特性のみを調べるため、小さなスリット光を(網膜面上での大きさ:0.05・0.2mm)をCRTディスプレイ上に表示し、網膜面上を走査した。その結果、以下の事がわかった。(1)スリット光刺激で生じた応答振幅が大きくなるにしたがい、測定された受容野も拡大する。この拡大を空間長さ定数で評価した場合、0.0279〜0.0623mmの範囲で生じる。(2)背景光照射により、測定受容野は、空間長さ定数が0.05〜0.066mmの範囲で拡大する。 計算機シミュレーション実験:エッジ検出細胞の形態構造に着目したコンパートメントモデルを作成し、模擬的にスリット光照射することにより、中心野特性を調べた。その結果、エッジ検出細胞は樹状突起間で隣接する細胞と電気的結合を行なうが、この場合、電気的結合の抵抗が低下しても受容野の拡大がある大きさ以上は行かないように抑えられることが明らかになった。このことは、中心野が外界の光景に適応して変化しても、空間分解能が極端に低下しないように制限を設けていることを示している。
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