研究概要 |
水中のベンツピレン(BaP)は,水生生物や底質中で検出される濃度よりもはるかに低い.この物質の環境動態を解析するには,そのスポット値よりも時間加重平均値(TWA)を用いるほうが効果的である.生物への慢性影響は,汚染物質がその生息環境に長期間にわたって存在することに起因する.本研究では,新規に開発した1週間レベルのTWAを簡易的に測定可能なサンプラーを用いて,BaPのTWAを測定することが可能であるかどうかの基礎的検討を試みた. まず,BaPを持続的に供給するDosing Columnを備えた実験水槽を用意し,試験水のBap濃度を0.2ppbに保った.しかしながら,この装置では濃度を予め設定することは困難であった.ここで用いたサンプラーは,補集素材として用いたブルーレ-ヨン(BR)を充填したガラス管(サンプリング部)と,除湿剤として用いるシリカゲルが密封されている容器(吸引部)で構成され,前者を後者に接続している.このサンプラーを試験水槽の水面にサンプリング部が水に浸るように浮かべ,一定期間放置する.吸引部の水蒸気圧はシリカゲルで低下し,毛細管現象で試料水はサンプリング部の下部からゆっくりと吸い上げられる.通水量はシリカゲルの重量差で推定した.BaPの移行も同時に起こりガラス管内のBRに吸着する.繰り返し実験の結果,1週間で25mLの試料水が通過し,その通過速度はほぼ一定であった.BRに吸着したBaPはメタノール/アンモニア溶液で抽出し,蛍光検出器付HPLCで定量した.試験水中のBaP濃度は,経事的にスポット採水し,石油エーテルで抽出して測定した.1週間でBRに吸着したBaP量を通過推量で除して求めたBaP量から求めたTWAと,試験水のBaP濃度の平均値とはほぼ一致した.次に,サンプリング期間を変えて同様の実験を行った.その結果,期間が短い場合には,やや高めのTWAが得られた.その理由としては,純水が満たされている補集管を試験水に浸けた直後には,水の運動によるBaPの移行よりも分子拡散による移行が支配的になり,その影響が大きいと考えられた.一方,10日間のサンプリングでは,逆にやや低めのTWAが得られた.BRに吸着したBaPの変質などが考えられるが,その確認には至らなかった.以上の検討から,ppbレベルのBaPのTWAの測定の可能性が得られたが,現時点ではそのレベルのフィールドは確認されていない.
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