本年度は、ラット(SHRSP)の片側中大脳動脈(MCA)枝の完全閉塞実験による局所虚血性神経細胞死モデル実験系において、主に電顕形態学的解析を行なった。虚血負荷後2、6、12及び24時間、3及び7日に動物を固定し、中枢神経系、特に大脳皮質、視床、及び海馬領域の神経細胞や神経膠細胞への影響について検索した。虚血後2時間では既に大脳皮質の虚血中心領域の梗塞巣に分布する神経細胞が膨化し、細胞膜や核膜さらにミトコンドリア等の細胞内小器官の膜系が崩壊した典型的な"necrosis"の様相を呈しており、TUNEL陽性の核DNAの障害を伴う急激な細胞死であることが分かった。同時期の大脳皮質の梗塞巣周囲領域(penumbra)は光顕観察上は一見正常であるが、電顕微細形態では細胞質の電子密度が低く膨化傾向にある神経細胞と、電子密度が高く萎縮傾向にある神経細胞が共に観察された。虚血後6時間のpenumbra領域ではこれら両者の形態がより明瞭になり、電子密度が低く細胞全体が大きく膨化して明らかに"necrosis"に陥った細胞と、電子密度が高く細胞内小器官は正常であるがリソゾームシステインプロテアーゼ免疫反応性の増加を伴い細胞質の萎縮を示す"apoptosis"に陥った細胞が混在して観察された。penumbra領域の神経膠細胞の中で星状膠細胞と希突起膠細胞は細胞死に至るが、中でも星状膠細胞は虚血後2時間で既に細胞質内の構造変化が著しく、従来虚血障害には最も強いとされていた星状膠細胞が最も早く細胞死に向かう可能性が示唆された。星状膠細胞の死は神経細胞に見られた"apoptosis"と"necrosis"の二つの異なった細胞死機構の始動に深く関連するものと思われた。以上の結果をふまえ、現在in situ hybridization法による細胞死関連遺伝子の発現解析を進めている段階である。
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