本年度は、ラット(SHRSP)の片側中大脳動脈(MCA)枝の完全閉塞実験による局所虚血性神経細胞死モデル実験系、およびスナネズミの総頚動脈の短時間閉塞実験による一過性前脳虚血神経細胞死モデル実験系において、主に免疫組織学的解析を行なった。局所虚血性神経細胞死モデルでは虚血負荷後2、6、12及び24時間、3及び7日に動物を固定、また一過性前脳虚血神経細胞死モデルでは虚血負荷再還流後2、6、12及び24時間、3、4、5及び7日に動物を固定し、細胞死関連蛋白の一つと考えられるCaspase familyのなかでICEおよびCPP32に対する抗体を用いて免疫染色を行ない、中枢神経系、特に大脳皮質、視床、及び海馬領域の神経細胞や神経膠細胞における免疫染色反応性の変化の有無あるいは時間経過について検索した。結果としては残念ながら呈示しうるような明確な反応性の変化得られなかった。これはおそらく、購入した抗体の抗体力価等の問題であると考えられるが、しかし虚血負荷後比較的早期の両モデル動物の細胞死に向かう神経細胞群において微弱ではあるが免疫反応性の増強があるようなので、さらに新しい抗体等を用いて現在検索中である。 虚血付加を受け細胞死に向かいつつある神経細胞群においては、リソゾームシステインプロテアーゼ免疫反応性の増加を伴い細胞質の萎縮を示す″apoptosis″に陥った細胞が多数観察されことを過去2年間の研究において明らかにした。細胞死関連蛋白の一つと考えられるCaspase familyもシステインプロテアーゼの一つである。3年間の研究成果を併せ考えると神経細胞が死に至る機構、特に″apoptosis″いおいて、細胞を死に導く情報伝達機構の下流領域にシステインプロテアーゼが重要な因子の一つとして機能していることは明らかであり、その活性化の抑制が細胞死を回避する要素の一つと成りうるものと考えられた。
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