研究概要 |
ラット(SHRSP)の中大脳動脈枝の完全閉塞実験による局所虚血性神経細胞死モデル実験系において、大脳皮質の虚血負荷後の経時的な形態変化を、主に組織学的に解析した。虚血後2時間で既に大脳皮質の虚血中心領域には梗塞巣が見られ、神経細胞は“necrosis"による細胞死の様相を呈する。同時期の梗塞巣周囲領域(penumbra)は一見正常であるが、電顕微細形態では膨化傾向にある神経細胞と、萎縮傾向にある神経細胞が共に観察された。虚血後6時間のpenumbraでは両者の形態がより明瞭になり、電子密度が低く細胞全体が大きく膨化して明らかに,“necrosis"に陥った細胞と、電子密度が高く細胞内小器官は正常であるがリソゾームシステインプロテアーゼ免疫反応性の増加を伴い細胞質の萎縮を示す“apoptosis"に陥った細胞が混在して観察された。これらの皮質神経細胞は虚血後1日から3日の間にTUNEL陽性の遅延性核変性を示す。Penumbraでは星状膠細胞と希突起膠細胞も死に至るが、中でも星状膠細胞は虚血後2時間で既に細胞質内の構造変化が著しく、従来虚血障害には最も強いとされていた星状膠細胞が最も早く細胞死に向かう可能性が示唆された。星状膠細胞の死は神経細胞に見られた“apoptosis"と“necrosis"の二つの異なった細胞死機構の始動に深く関連するものと思われた。スナネズミ短時間虚血後の海馬CA1錐体神経細胞において、Caspase familyの一つであるCPP32の免疫反応性がTUNEL陽性反応を示す直前に増強された。これらの結果は神経細胞が死に至る機構、特に“apoptosis"において、細胞を死に導く情報伝達機構の下流領域にCaspaseを含むシステインプロテアーゼが重要な因子の一つとして機能する事を示し、その活性化の抑制が細胞死を回避する要素の一つと成りうるものと考えられた。
|