可塑的神経回路の形成には、シナプス結合における可塑性及び神経細胞膜の興奮性の可塑的変化の両方が関与すると考えられる。本研究は、神経細胞膜興奮性の可塑的変化の機構についての解明を行ったものである。 ラット前頭皮質錐体細胞は細胞内をCsCl及び0.2mMEGTAで還流すると、脱分極パルス通電によりプラトー型の活動変位に続いて持続の長い脱分極性スパイク後電位(DAP)が誘発される。そして、このDAPが電位依存性且つCa^<2+>依存性のカチオン・チャンネル(透過比率P_<Na>/P_K<0.2)によって担われていることを報告した(1995年神経科学会発表)。また、DAPはGABA(A)受容体の遮断薬の存在下でのシナプス活動による活性化により、著しく増強された。DAPの増強の原因として、細胞外のK^+濃度の上昇が、反転電位の脱分極方向への移動により示唆されたが、細胞内のCa^<2+>濃度の上昇もDAPの増強の原因の一部であることがCa^<2+>測光により示唆された。この過程は、てんかん誘発の機構を説明し得るものと考えられる。(1995年度日本生理学会発表)。また、DAPのCa^<2+>依存性はラットの生後日齢により変化した。このことは、DAPのCa^<2+>依存性が可塑性に変化する可能性を示唆している。しかしながら、DAPのCa^<2+>依存性の詳細については明らかではなく、その調節機構が存在するか否かも全く報告がない。スパイク後電位が過分極性か脱分極性かにより、発火の時系列パターンは大きく異なる。このような機構による神経細胞興奮性の可塑的変化は、シナプス結合における可塑性と共に脳の可塑性の発現に重要な役割を果たすものと考えられる。
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