研究概要 |
本研究は2年計画で,本年度はその初年度に当たる。 「文化」を広く情報の一形態として捉え、文化現象を情報科学の立場から捉え直す方法として、ド-キンスの自己複製子の概念を導入した。人工生命のシミュレーションの手法を適用し、「ミ-ム」をコンピュータ上で進化させ,その振る舞いを観察した。その結果、研究途上ではあるが、文化現象としての振る舞いををミクロ的に解き明かしていくことの有効性が一部検証された。例えば、現代文化が、これまでの人類史上の文化には見られない幾つかの特徴を有していることが示された。それらは「極めて文化進化が早いこと」および「文化進化が点在すること」である。この現代文化を特徴づける要因として,通信技術の進歩を挙げることが出来る。有線,無線の現代通信技術,つまり電話,ラジオ,テレビ,インターネットを始めとする情報通信技術こそが,現代文化の性格を形作っている。よって,現代文化を,「ネットワーク文化」と呼ぶ事ができる。 現代文化の特徴が「ミ-ム」のシミュレーションによって示されたことは大変興味深いことであるが、その結果もさることながら、「ミ-ム」の概念を文化研究に取り入れたこと自体に意義がある。今回の研究成果だけでは「ミ-ム」の有用性が必ずしも全面的に証明されたことにはならないが、文化現象をミクロ的に研究する試みは評価されよう。 他方、文化現象を情報科学の立場から捉え直すもう一つの方法として、「文化」と「情報」の共通項は「言語論」および「記号論」であるという考えに立ち、原語論または記号論からのアプローチによって「文化」の情報科学的解釈を構築しようとしているが、これは現在模索中である。
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