研究概要 |
咀嚼と脳賦活との関わりについての基礎的検討として,若年者を対象として固体が示す顎顔面骨格構成および咬合形態によって,咀嚼時の脳血流動態に差異が存在するかどうかについて調べるため,酸素^<15>標識の水とポジトロンCT(PET)を用いて検討を行った.研究対象は,21〜32歳の健常ボランティア男性6名である.それぞれ頭部X線規格写真(セファロ)の撮影と歯列模型の採得を行い,顎顔面骨格構成および咬合について検討した.脳血流動態については安静時とガムベース咀嚼時にPETを用いて測定を行った.得られた脳血流画像について関心領域を設定し,ガム咀嚼に伴う局所脳血流(rCBF)の変化を求めて咬合や顔面形態との関連について検討した.その結果,ガム咀嚼による脳血流変化には個体差が大きいものの,上・下顎骨に調和のとれた概ね良好な咬合を有する者では,一次運動感覚領下部(ローランド野),島,小脳半球などで明らかな脳血流の増大が認められた.一方,顎顔面骨格や咬合に種々の問題を有する不正咬合者では,咀嚼による脳血流変化が正常咬合者と異なる傾向が認められ,一次運動感覚領下部や島での明らかな賦活は認められない者もいた. 以上のことから,咀嚼による脳の賦活化部位とその量は個体間でかなり変異に富んでおり,それには個体の示す顎顔面骨格構成および咬合とそれに関わる咀嚼運動様式が関与している可能性が示唆された.しかし,PETによる脳の賦活試験は基本的に脳の機能局在を明らかにするものであり,不正咬合と脳の発育や脳血管障害の予防との関連性を短絡的に結びつけるべきではない.21世紀は脳の時代ともいわれ,機能的MRIなど今後より侵襲の少ない方法で脳の様々な機能が明らかにされと考えられる.咀嚼関連の研究分野においても脳機能と咬合との関わりについての研究意義が認められ,本報告によってこの方面の研究が進む契機となることを期待したい.
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