本計画は、九州沿岸・琉球列島の2海域における、共通するサンゴ種・固有のサンゴ種を対象とした成長・生殖・生残に関する調査(生態調査・環境計測)と短期実験系(生理実験)・長期飼育実験系(検証)の3つを軸に、近年の環境変化に伴う日本の造礁サンゴの分布動態における環境ストレス影響の評価、造礁サンゴの潜在的な適応力検討、サンゴ群集間での相互影響を明らかにすることを目的として開始した。初年度である本年度は、九州・沖縄両海域において野外でのサンゴ群集調査を実施し、長期的観測・実験が可能と考えられる調査点・実験対象種の選定をおこなった。また、環境計測のためのデータロガーを海域に設置すると同時に、採取した海水中の硝酸・亜硝酸・アンモニウムイオン・リン酸塩についての分析をおこない、海域の環境特性把握をおこなった。 野外調査を基に選定したサンゴ種に対する各種環境影響を見るための実験系では、富栄養化が造礁サンゴの生理に直接及ぼす影響を視野に入れ、栄養塩濃度の高い状態が造礁サンゴに及ぼす影響についての長期(複数年)観測を開始した。本年度は特に夏季の高水温・強光環境下で、生理活性変化の指標である共生藻における光合成活性・サンゴ群体の相対成長量についての解析をおこない、亜熱帯域での致死的なストレス条件を明らかにした。加えて、寒冷・弱光ストレスが共生藻の生理やサンゴの成長に及ぼす影響について調べた結果、夏期に見られる異常高水温時と同等以上のストレス(光合成低下・成長停止)が冬期にかかっていることを示唆するデータが得られた。 これまでの蓄積データと本研究から得られた初期成果とを合わせて、学術雑誌への投稿・掲載のほか、学会での発表をおこなった。
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