研究課題
最終年度である平成21年には、石西礁湖をはじめ、沖縄本島周辺・天草周辺の3海域を中心にした野外調査を実施し、亜熱帯から温帯にかけてのサンゴ群集の種組成解析をおこなった。同じく、設置した光・水温ロガーからのデータ回収をおこない、各海域の環境特性把握をおこなった。各海域から適宜採集した海水は、分光分析法を用いて解析し、硝酸・亜硝酸・アンモニウムイオン・リン酸塩についてのデータを得ることができた。これまでのデータを総合することで、高緯度域に移るにしたがって、サンゴ種数が抑えられており、水温・光量の低下傾向と同時に、海水の溶存栄養塩に著しい増加傾向が示された。加えて、分布北限が奄美以南である、サンゴ種(コユビミドリイシ)を対象とした、計画初期からの沖縄県内での屋外長期飼育実験によって、亜熱帯域特有の通年環境変化に対するサンゴ-共生藻の生理的応答のパターンの存在と経年の変化が明らかとなった。特に、11~2月期における寒冷ストレス・弱光下での生理的傷害や成長への悪影響(生存性低下・成長停止)等について調べた結果、共生する藻類の光合成活性・サンゴ群体の成長率について、夏期の異常高水温時と同等またはそれ以上のストレスがかかっていることを示すデータが得られた。また、2009~2010年期では、2008~2009年期に比べて夏季の水温上昇が比較的弱く、夏の成長阻害が抑えられていた。さらに、冬季の海水温度が例年より高かったため、低温ストレスが抑えられていたことで、成長速度が高くなるなど、年ごとの環境影響の違いが顕著に見られた。これらの結果は、主対象とするサンゴ種が奄美以北の本州側に加入・成長できない原因を強く示唆する。そのほか、2008年に開始したハマサンゴ属における長期モニタリングにより、同サンゴ種の群体間において、季節特有の環境影響を受けやすい群体と受けにくい群体が存在することが始めて明らかとなった。これまでの蓄積データと本研究から得られた成果とを合わせて、日本ベントス学会、日本サンゴ礁学会、日本生態学会シンポジウム等で適宜発表をおこない、多分野研究者との議論を交わすことができた。
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