統一理論の最有力候補である超弦理論は4次元以上の高次元時空の存在を示唆している。高次元理論の枠組みで4次元宇宙を実現するには、余剰次元のコンパクト化と安定化が必須である。反対称場のフラックスを余剰次元方向に導入することで、このコンパクト化と安定化を成し遂げようとするのがフラックスコンパクト化と呼ばれるアイデアである。一方、昨今の観測により極初期および現在の宇宙が急激な加速膨張をしているという事実が確立されてきているが、このような急激に加速膨張する宇宙はドジッター時空と呼ばれるもので近似的によく記述できる。つまり高次元理論で宇宙を記述する上で、安定化されたコンパクトな余剰次元が付随した4次元ドジッター時空を構成することは、ひとつの重要な課題といえる。 本年度は、フラックスコンパクト化とドジッター時空を両立するものとして、6次元ブレーンワールドおよびFreund-Rubinコンパクト化といった球状の余剰次元にフラックスを導入したモデルを考え、その下で時空の安定性などの性質)解析を行った。まず時空の線形安定性を解析し、ドジッター時空の膨張率が高い場合は不安定性が生じることを示した。さらにこの不安定性を時空の熱力学の観点から再解釈し、全フラックスを固定したときドジッター時空の持つエントロピーの高い時空の系列が安定で低い系列が不安定であることを示した。これは、動的な安定性と熱力学的な安定性に対応関係があることを示しており、過去に議論されてきた余剰次元を持つブラックホール時空の場合と同様な性質がドジッター時空にも存在する具体的な例である。また、余剰次元の数が大きくなると現れる余剰次元空間の変形にあたる不安定性に対しても、それに対応する内部空間が変形した別の時空の系列が存在することを示した。これらの結果はブラックホールの場合と同じく余剰次元をもったドジッター時空も様々な相を持ち多様性があることを示すものである。
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