研究課題
昨年度の明治期の日本の検討に続いて、今年度は主に西欧近代が研究対象とされた。四月より計8回の研究会がもたれたが、その内容は以下の通りである。まず、ルネサンス期の画家たちの「夢」の表象が松原により分析された。そしてそこに現れた非合理性は、実は西欧近代化を進める一契機であったことが指摘された。ついで、中国の近代美術制度の報告が古田よりなされた。中国の美術の近代化が一種の伝統回帰の理念に基づいて行われたことが報告され、それに関連して芸術制度の逼塞条件についても論議された。引き続き、吉岡洋は近代美学に内在している目的論が、生命体の論理としても現在新たな射程を得ていることを述べ、また井上はモニュメント彫刻から作品としての彫刻への移行を社会の受容意識の変遷から論じたが、これらは共に近代資本主義国家の価値理念を問い直すものであった。林は再び明治期の検討に戻り、演劇改良運動の失敗の原因を解明し、つづく川田はイギリスでのフォーマリズム運動の萌芽の動機を論じたが、ここでは近代の近代性が地域的な差異を持つこと、および歴史を創作するという自覚的操作が近代性の徴候であることが指摘された。上村はそれを受けて、もうひとつの近代性の徴候として、「種」や「類型」を前提におく理論の制度化を挙げ、例として1800年前後の美術館を巡る論争を紹介した。以上の諸検討を経て、国民国家の体裁を持つに至った19世紀以降の西欧的国家群の、いわば反近代的側面が明らかになったが、それと同時に、進歩思想の形での時代的な意識が、相補的に並存しているという19世紀特有の情況がつまびらかにされた。
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