研究概要 |
前年度に引き続き、表情認知時における眼球運動の測定から視覚情報としての顔をどのように処理し表情判断を行っているのかを検討した。前年度では線図形で描かれた7表情(嬉しさ、興味、驚き、恐怖、嫌悪、怒り、悲しみ)のシュマティックな顔を用いたが、前年度の結果を検討して「興味」の表情を除外し、20歳前後の男女各2名の顔画像をコンピュータによって合成したもの6表情を用意した。合成画像を使用したのは現実生活の表情判断により近づけるためである。前年度同様blow,eye,mouthを系統的にマスクし、カラーモニタに提示して表情判断の正答率と反応時間を測定した。その結果「悲しみ」と「恐怖」の表情は正答率が低く、それ以外は正答率は高い。「悲しみ」の表情では、誤反応は「嫌悪」と判断され、「恐怖」の誤反応は「驚き」と判断された。また、「嬉しさ」と「怒り」は一貫して高い正答率を示した。眼球運動においては、停留点を70ミリ秒以上、視角1.05°×1.05°の領域内に留まっていた位置と定め解析を行った。その結果眉、目、鼻、口など表情ごとに異なる特徴があるにもかかわらず、眼球運動はそれらの部位自体に停留することは少なかった。驚きの表情の場合でさえ、その大きな特徴である口とその周囲に停留しない。多くの場合、顔の筋肉によって作られる皮膚の「シワ」に繰返し眼球運動の停留が生じている。特に鼻上部の両眼間に集中している。以上の分析から、表情認知は目をはじめとする顔の構成要素を手掛りとしながらも、顔の筋肉の変化にかなり影響されていることが明らかになった。このことは従来言われている部分間の布置関係という全体情報の重要性を意味するものではない。1998年のARVO学会(The Association for Research in Vision and Opthalmology)、第62回日本心理学会で成果の発表を予定している。
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