本年度は地方都市として石川県松任市・熊本県人吉市・岩手県遠野市・群馬県桐生市・富山県八尾町などを選び、そこでの民俗と風俗に関する変容過程の実態調査を行った。 調査の内容は、1960年代の日本の高度経済成長期前後における変容期を対象に、調査地における聞き取り調査を中心とし、さらに地元図書館や博物館が所有する文献資料、地域が発行した刊行物、写真やフィルムなどの映像資料を調査の参考とした。 これらの地方都市は小城下町あるいは在郷町の性格で、いわゆる大都市ではない。従って周辺農村との関係は深く、ムラとマチバとの関連の仕組みや生活様式の違いなどが民俗学的に比較的明瞭に考察できる地域社会である。 調査の結果はまだ中間的なものなのでそれほど明確ではないが、60年代という時期は都市の景観すなわち空間構造を大きく変容した時期であり、民家(商家)の建物や店構えがより近代的なものに改築され、そのことから町並みが大きく変化した時期でもある。さらにそれに付随して家屋内の生活様式も変化し、主として台所などが改善された。つまり畳や床に丸いチャブ台を置き、坐って食事をとる方式から、椅子とテーブルにて食事をとる方式に変わり、また炊事場と食堂とが接近して家事の合理化がはかられた。このことは商店街の商業活動にも影響を与え、店の客と奥の家人とを敏速に結ぶことができ、多種類の商品を販売することが可能となった。しかし店舗の改築は、それまで店の一角に火鉢が置かれ、炉が切られていた畳の空間を取り去り、そのことによって周辺農村の顧客とのコミュニケーションの機会を失わせ、それまでの関係が希薄となった。 このようなマチバをもつ地方都市には年に1、2度の大きな祭礼が行われているが、60年代にはそれを維持する地域社会の変容によって、より形骸化した祭礼組織のみが残り、従って地域の信仰行事から商業地を支える都市行政のイベント行事に変化している。 今回の調査にて60年代以前までは、明治後期からのマチの生活習俗や風俗が、その本質部分に置いて基本的に変容することなく継承されている蛍光のあることが分かったことから、今後はそれを復元することを一つの目的とし、地域社会や家族の個々の生活実態について、色彩や音、匂いといった感覚の民俗文化、風俗文化に関してもより細かな事象の確認作業を行うこととした。次年度も同様の調査を続ける予定である。
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