研究概要 |
本研究は(1)ヘリウム準安定原子ビームのスピン偏極化、(2)準安定原子脱励起分光(MDS)による遷移金属単結晶表面最外層の局所スピン密度の抽出方法確立、(3)磁性表面と単純分子の相互作用や磁性超薄膜などへ本手法を応用して表面における磁気秩序の特異性を明らかにすることである。 初年度はまず第一に、半導体上の遷移金属吸着層の磁性研究への発展を展望して、既設の(スピン非偏極)準安定原子の脱励起分光装置を用いた局所電子状態解析を行った。特にSi,Ge,GaAs(001)表面上の金属吸着過程及び金属+酸素強吸着過程における局所電子状態変化を明らかにした。第二にスピン偏極準安定原子脱励起分光(SPMDS)装置の開発に主力を注いだ。ホローカソード+ノズル+スキマ-系での放電で得たHe*原子ビームに、ヘリウムガス高周波(140MHz)放電+直線偏光板+λ/4板で得た右(又は左)円偏光を照射した。この2_3 2_3P間の光ポンピング法でHe*(2_3)のスピンS=1の光進行方向成分が1(または-1)を多く含むスピン偏極ビームを得ることができる。試料はNiの磁化容易軸〈111〉を連ねた額縁型単結晶の側面でNi(110)表面である。スピン偏極He*ビームをこのNi(110)に照射して得られた電子エネルギースペクトルは、He*がこの表面で共鳴イオン化+オージェ中性化で脱励起したことを示した。試料磁化方向とHe*原子スピン偏極方向を相対的に反転させたときの放出電子スペクトルの差から、スピン非対称性をエネルギーの関数として見積もった。その結果は、どのエネルギーでも少数スピン方向優位という非対称性を示したOnellionらのSPMDSの実験結果と一致しなかった。
|