研究概要 |
我々は、日本人前立腺癌36症例を対象に既知癌関連遺伝子領域を含む12lociの染色体欠失(以下LOH)、BRCA1、BRCA2、及びアンドロゲンレセプター(以下AR)遺伝子変異、および増幅について、また同90症例のp53遺伝子変異を解析した。その結果、染色体8p、10pq、16qの領域に共通したLOHを認めた(8p22-21.3,10q22-24,10q25.1,10p11.2-pter,16q22.1,16q23.2-24.1,16q24.3-qter)。また、染色体第8番短腕のLPL遺伝子のLOHは臨床病期と正の相関関係を示し、癌の進展に関与すると考えられた。一方、家族性乳癌や一部の前立腺癌に関与すると報告のあるBRCA1およびBRCA2遺伝子についてはLOHの頻度は低く、またBRCA2遺伝子の変異も認められないことより、これら遺伝子の日本人症例での関与は少ないと考えられた。P53遺伝子では、全体の30%、病期D症例を中心として遺伝子変異が検出され、これらの点では欧米との差は認められなかった。しかし、transversion型変異を主体とし、欧米のtransition型主体の変異様式とは異なっていた。APC遺伝子では、35例中1例に変異が認められたに過ぎず、その関与は低いと考えられた。AR遺伝子変異並びに増幅は、病期D症例13例中6例(46%)に認められ、ホルモン不応性への移行に関与していると思われた。、AR遺伝子exonAのmethylationについては、2症例(6%)にHhaI及びHpaII領域にmethylationを認めた。 以上の如く、本研究では分子病理学的手法を用いて、その発癌機概の解明を試みた。その結果、癌関連遺伝子の変異頻度および変異様式は日本と欧米で異なることが明らかとなり、前立腺癌における発癌過程の違いが示唆された。しかしながら、前立腺発癌機椛の解明に端緒を付けたに過ぎず、なお一層の研究が必要と考えられた。
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