本研究ではヒト前立腺癌において癌関連遺伝子を解析することにより、その発癌機構の解明を目的とした。2年度にわたる研究期間を通じて、我々が三重大学泌尿器科、千葉大学泌尿器科、および大阪府立成人病センターと共同して採取、凍結保存している前立腺癌標本を用い、癌関連遺伝子の染色体欠失、遺伝子変異、増幅、およびアンドロゲンレセプター遺伝子の変異、増幅およびメチル化について解析をおこなった。 その結果、染色体8p、10pq、16qの領域に共通したLOHを認めた。また、染色体第8番短腕のLPL遺伝子のLOHは臨床病期と正の相関関係を示し、癌の進展に関与すると考えられた。一方、家族性乳癌や一部の前立腺癌に関与すると報告のあるBRCA1およびBRCA2遺伝子についてはLOHの頻度は低く、またBRCA2遺伝子の変異も認められないことより、これら遺伝子の日本人症例での関与は少ないと考えられた。P53遺伝子では、全体の30%、病期D症例を中心に12%に遺伝子変異が検出され、これらの点では欧米との差は認められなかった。しかし、transversion型変異が多く、欧米のtransition型主体の変異様式とは異なっていた。APC遺伝子では、35例中1例に変異が認められたに過ぎず、その関与は低いと考えられた。AR遺伝子変異並びに増幅は、病期D症例13例中6例(46%)に認められ、ホルモン不応性への移行に関与していると思われた。AR遺伝子exonAのmethylationについては、2症例(6%)にHhaI及びHpaII領域にmethylationを認めた。 以上より、前立腺癌における癌関連遺伝子の関与が明らかとなり、また癌関連遺伝子の変異頻度および変異様式が日本と欧米で異なることにより前立腺癌における発癌過程の違いが示唆された。しかしながら、前立腺発癌機構の解明に端緒を付けたに過ぎず、なお一層の研究が必要と考えられた。
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