研究概要 |
【緒言】レトロウイルスベクターは,導入遺伝子が染色体に組み込まれ,長期の遺伝子発現が得られることが利点であるが,遺伝子導入効率が低いこと,非分裂細胞には遺伝子導入ができないなどの欠点を持つ。一方,アデノウイルスベクターは,感染効率が良く,分裂,非分裂細胞にも遺伝子導入が可能であるが,遺伝子発現が一過性であり,また,アデノウイルス自体の細胞障害性や,免疫原性などの問題点を有している。これらの欠点を補う新しいウイルスベクターとしてアデノ随伴ウイルス(Adeno-associated virus : AAV)ベクターが注目されている。今回,培養ラット大動脈平滑筋細胞(VSMC)を用い,AAVベクターによる長期の遺伝子発現について検討するとともに,摘出ラット大動脈を用いたex vivo遺伝子導入法について検討する。【方法】β-galの発現はELISA法にて定量した。摘出ラット大動脈を用いたex vivo遺伝子導入はX-gal染色法にて解析した。【結果】VSMCにおけるβ-galの発現はmoi依存的に増加した。長期発現の検討では,遺伝子導入3週間後(6継代後)においてβ-galの発現量はtransientの発現量(3日後)の約1%でプラトーになり、4週後(8継代後)においても同じ発現レベルであった。摘出ラット大動脈を用いたex vivo遺伝子導入では,X-gal染色にて血管内皮細胞を血管外膜の細胞において遺伝子導入が確認された。【考案】AAVベクターは,動物実験ではパーキンソン病や脳腫瘍の遺伝子治療に有用であることが報告されている。今回の検討より,1ヶ月以上の長期の遺伝子発現が確認され,本ベクターによる遺伝子導入法の利点の1つと考えられた。Ex vivo遺伝子導入実験は,内皮細胞および外膜の細胞への遺伝子導入が可能であり,血管系への応用が可能であることが示唆された。
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